ストック

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夢の中で私は貴方と二人、大きな樹の下に座っていた。
木漏れ日の柔らかな暖かさと、ふかふかの芝生。通り抜けるのは爽やかな風。
私たちは何をするでもなく、並んで座っている。

不意に、私はこれが夢だと気づいた。
この穏やかな空間は存在しないし、貴方は遠くへ逝ってしまった。
だから、これは私がみている夢。

でも、例えこれが夢だとしても、目が覚めるまでにどうしてもしておきたいことがある。
貴方が私の前から消えてしまったとき、どうして勇気を出して自分の気持ちを伝えなかったんだろうとずっと後悔してきた。
もしかしたら、幻とはいえこれが最後のチャンスかもしれない。

私は貴方の手に自分の手を重ねる。
夢だからだろうか。貴方はそのまま私の手を受け入れてくれた。
「貴方のことが好きだよ」
思いきって口にした言葉に、貴方はこちらを向いて「俺もだよ」と微笑んでくれた。
そうして、私たちは手を繋ぎ合ったまま、再び風景を眺めていた。

目が覚めるまででいい。この穏やかな時間が続きますように。
それ以上は望まないから。

8/3/2023, 2:54:25 PM