小さな幸せ
幼少の頃、母のストレスのはけ口にされ、ネグレクトされ、つらい毎日だった。朝食は、夜仕事に出て朝帰る母は寝ていて、昼も寝ていて、夜、出かける前にカップ麺か菓子パンを1つ放り出していく。1日1食だった。
その出掛け、いきなり突き飛ばされたり、蹴られたりすることがあった。何が起こったか分からないまま、母は鍵をかけて出かけていく。
毎日、外に出ることもなく、ひもじい私は、アパートの一室で膝を抱えていた。幼児だから一人でシャワーを浴びる才覚もなく、汚くて臭かったと思う。
ある日、アパートのドアの鍵が急に開いて、大人が入ってきた。管理人のおじさんと、かすかに知ってるおばさんだった。「マリン!」と叫び、そして、「この子です!管理人さん、ありがとうございました」おばさんが言った。
母の母、つまり祖母だった。「マリン!こんなになっちゃって」汚い私を抱きしめて、背中を擦ってくれた。
そこから、私の人生が激変した。細かいプロセスは小さいから分からなかったが、私は祖母に引き取られ、祖父亡き後の家に引き取られた。
温かいお風呂に祖母と2人で浸かったときは、今まで知らなかった気持ちよさに、滂沱の涙を流した。「マリン」祖母も泣いて、私の手をぎゅっと握ってくれた。
出来立てのご飯を貰って食べた時は、美味しくて美味しくてまた泣いた。
それからは、そういう生活が続いて、私は祖母の下で成長した。母は1度も現れなかった。現れなくて良かったと思う。時々あの頃の生活を思い出して震えることがあったから、会ったらどうなったか想像がつかない。10代で私を産んで、母もたいへんだったのだろうけど、それは今なら思うことだ。
祖母が現れた最初の頃の感動は、小さな幸せなんてもんじゃなかった。大きな大きな幸せで、世界の色が変わった。私は救われたんだと、子ども心に理解していた。
No.151
3/29/2025, 2:18:58 AM