『ひらり』
天にも地にも、己れと並ぶ者はないとばかりの傲然とした面持ちで、そいつは地を蹴った。
ひらり。
まさに牛若丸が五条の橋で見せたような跳躍だった。
そして、そいつは目測誤って門柱を越して。
明らかに空中姿勢を崩して門の向こうへ墜ちた。
降りた、ではない。落ちた、ですらない。
呆気にとられた俺に、そいつは取り繕ったようなドヤ顔を見せつけ、そそくさと去る。
なかなかに生意気で可愛い。
あんな猫もいるんだなぁ。
野良と思わしいが、あれでよく生き延びているもんだ。
これが、そいつと俺の出逢いというやつだった。
ちなみに、この野良猫はやがて俺の命名でひらりという名を冠することになる。が、まぁそれは別の話。
3/3/2025, 11:34:34 AM