与太ガラス

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「それ、聞く意味ありますか?」

 う、言っちゃった。さすがに向こうの方が立場は上だよなぁ。しかもビジネスの場だもんなぁ。バカな女だと思われるかなぁ。でも我慢できなかった。

「意味がなかったら、聞いちゃいけないんですかね」

 ん?あれ?そういう反応?動揺もしてないし怒ってもいないな。

「今の質問は、私が興味があるから聞いたんです」

 うーん、言い分はわかったけど、やっぱりキモいか。

「答えないとダメですか?今回の商談とは関係ないように思うんですが」

 恐るおそる聞いてみる。さすがに、パワハラとかセクハラに当たるかもしれない。返答によっては。

「あ、失礼、嫌でしたら答える必要はありません。もう打ち合わせでお話ししたいことは一通り終えておりますので、単純に私が聞きたいことを質問したまでです。そう、聞かれたので」

「あ、やだ、確かに、その『これまでのことで何かご質問はございますか?』って私が言ったんですよね。失礼しました」

 こちらが笑うとあちらも少し笑い始めた。いーや違う違う違う。

「ですが! 私は『これまでの商談に対して』質問があるかと聞いたのであって、関係ない、あなたが私にしたい質問をしてほしいわけでは…」

「それはわかっています」

 相手はさえぎって切り出した。やべ、ちょっと強く出すぎたかも。

「ですが私は、お会いした方みんなに聞いてるんです」

 やっぱり変な人だ。なんでこんなことを。

「ちなみにそれは、なんで?」

「あ、これって、場の空気が和やかになる質問として有名なんです。よくラジオ番組なんかでもゲストが来ると必ずこの質問をすればひとくだりつなげるというか。今回は、こんな空気に、なっちゃいました、けど」

 あー良かった。変な人だけど怖い理由ではなかった。正直、いきなりあんなこと聞くから告白でもされるんじゃないかと思った。いや、それは自意識過剰だろ。

「ニラ玉です」

 安心した私は、質問の答えをサラッと伝えた。

「え?」

「好きなおみそ汁の具は、ニラ玉です」

 相手の顔がぱぁっと明るくなる。

 それから私たちはひとくだり盛り上がって、連絡先を交換し合った。数年後、まさか毎朝、彼にニラ玉のおみそ汁を作ることになるとも知らずに。

——

「出たよ『イマツマオチ』、どうせ作り話だろ?」

 パーソナリティの二人がゲラゲラ笑う。

「そんなことないって、ほら、奥さんと連名で、名前書いてあるじゃん」

「いやーそれにしてもあれだね。毎回ネタがなくて、意味がない質問を繰り返してたけど」

「『好きなみそ汁の具』ってやつな」

「こういうお便りが来ると、意味がないことなんてないな、世の中」

「お前それどういうまとめなの?ひどくない?」

 この番組は、今日もみそ汁の具でひとくだり盛り上がっていた。

11/9/2024, 12:07:33 AM