『芽吹きのとき』
貴女と出会って五年が経ちました。
笑顔の可愛らしいあなた。
花がお好きだと仰っていたのをよく覚えています。
春は河川敷で満開に咲く桜を
夏は駅近くの向日葵畑へ
秋は谷に咲く彼岸花で
冬は雪の被る椿
四季折々の花をあなたと一緒に楽しみました。
花畑でスカートをヒラヒラさせて歩く貴女の後ろ姿をお慕いしておりました。
出会って二年目の春に私はあなたにプロポーズをしました。
顔を真っ赤にして薔薇の花を九本束ねた花束を差し出しました。その手は震えていて格好良いとはあまり言えませんでした。
そんな私に貴女は微笑み頷き、花束を受け取ってくれました。そして貴女はそのまま薔薇に顔を近づけ目を瞑りそっと香りを感じました。その姿が私には美しく非常に尊いもののように感じました。
出会って三年目、私たちは別れました。
お互いを愛するまま私たちは離れなければなりませんでした。
今日で出会って五年目の春です。
別れてから二年目の春です。
私は貴女に会いに行きます。ずっと怖くて足をなかなか運べなかったのですが、やっと貴女に会う心づもりができました。
満開の桜の下に静かに佇む貴女。纏う雰囲気はあの頃と同じ優しい花のようでした。
私はそっと石を撫でました。
貴女が下に眠る石を。
ひんやりとして硬くて、昔のような柔らかさはありませんでしたが確かに貴女はそこにいました。
ふと見ると、墓石の隅に双葉が生えているのが見えました。
芽吹きのとき、私はまた貴女に出会い別れたあの日から止まった時間が進み出すのを感じました。
2025.03.01
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3/1/2025, 12:55:52 PM