──私の心がしぼりを失ってから、もう随分と経つ。
私以外のにんげんは、心にしぼりを持っていて、嫌なことがあっても、そこにぼかしをかけて、他のものに明るいフォーカスを当てるのだ。
そして、いつしかそれは画角からも外れる。光のモチーフに焦点を当てながら、この世を撮り続けているのだ。
私にはそれがない。
ずっと広い画角で、嫌でたまらないことを鮮明にフィルムに焼き付けている。尤も、私は素晴らしいこともよく知っている。夢を語る童話、美しい映画、具のたくさん入ったスープ、洗練された音楽、友と遊んだ記憶、その他もろもろ。
けれど、そこだけを見ることができない。私の闇は、光と等しく鮮明で、光はまったく目立たない。ノイズの中に光の点が混じったってわからない。
私の画角は広がるばかりで、決してモチーフが画面から外れることはない。
心のしぼりがあれば、きっと嫌な記憶は仄暗くなって、点々とした素晴らしい記憶は美しく照らし出されるのだろう。
…みんなは、そんな星空のような心を持っているのだろうか。
…まったく、羨ましい。…まったく、恨めしい。
───『光と闇の狭間で』
12/2/2024, 3:15:23 PM