「お金持ちになりたい」お金さえあれば世の中なんでもなる。お金さえあれば何でも手に入る。お金さえあれば幸せになれる。僕はそう信じている。
作文なんて言ってもなんにも思いつかないよ。お題は将来の夢。みんなスラスラと書き始めてる。耳にいやというほど夢を描いている音が聴こえてくる。あたりを見回しても鉛筆が尖っているのは僕だけっぽい。この時間が始まって早二十分。何も書いていない。見回りをしている先生がもうすぐこちら側にやってくる。まずい。このまま白紙だと先生に絡まれる。先生に絡まれると僕の作文用紙が白紙であることが周りに間接的に伝わってしまう。それはなんとしても避けたい展開だ。先生が来る前にとりあえずなんでもいいから書いておくか。「お前どうした」思わず体がビクッと反応する。「何も書いてないじゃないか!」来るのが想定よりも早かった。とてもまずいことになった。一番望まない展開になってしまった。「さては寝てたな?」あたりがざわざわする。「違います」「じゃあなんで何も書いてないんだ」「それは…」「とぼけるな!」あたりから嘲笑の笑い声がする。「言い訳はいいからさっさと書け!」その一言でさらにざわざわする。「静かに!」
はぁー。うざい。人の話を聞かない声だけでかいやつはクズだ。今日でより一層その偏見が心底根付いたよ。結局あのまま何も書けず宿題ということになった。先生には明日までに提出と強く言われた。あの言い方はもはや脅迫だ。これで明日出さずじまいだったらまた、まわりに醜態をさらすことになってしまう。さっさと書かなくては。時計の針は10を指している。焦りを感じ始め何と無く外を眺める。いつもと何も変わらない夜景。ここからだと人がノミだ。窓越しに人を指で握りつぶす遊びを昔よくやっていたことを思い出す。駅から来る人を眺めるのが癖になっている。「今日も帰りが遅いなぁー」両親は共働きで、どちらも大手の企業でバリバリ働いている仕事大好き人間。僕のことは二の次だ。父親からはよく”金は大切”と強く教え込まれてきた。だからやりたくもない勉強をやらされている。みんなみたいにゲームとかで遊んでみたいものだ。ここから飛び込んだら親はどう思うのだろうか?部屋が広くなったなとしか思わないんだろうな。「何考えてんだよ」現在二十二時三十分。くだらない空想で三十分も時間が過ぎていた。だが、あることをひらめく。とうとう進まない筆が作文用紙に文字を写す。
「先生!昨日の作文です」「おっ!書いてきたのか」先生に作文を渡す。「何だこれは?」作文用紙には大きな文字で”もう夢は叶っています”と書かれていた。
ある高層マンションで男女の死体が発見された。部屋は荒らされていて強盗がしたものと思われている。とうてい小学生の息子がしたこととは誰も思わなかった。
3/9/2024, 9:43:35 AM