300字小説
あの角の向こうから
『また明日もお願いね』
『はい!』
私が鍵っ子だったとき、偶然出会ったお母さんに頼まれて子守りをしていた時期があった。学校から帰って、角を曲がって家に行き、おやつを貰って、宿題をしながら赤ちゃんの相手をする。父も母も忙しい時期だったけど、そのおかげで、ちっとも寂しくはなかった。
結婚し、子供が産まれ、実家があった町に引っ越して、私はようやく、あのお母さんが誰か気付いた。
息子はどんどん、あのときの赤ちゃんにそっくりになるし、私もどんどん、あのお母さんに似てくる。
あれはきっと……。
戸棚にあのとき食べたおやつを用意し、息子をベビーカーに乗せて散歩する。
いつ、あの角から、あのときの私が顔を覗かせるだろう。
お題「また明日」
5/22/2024, 11:22:58 AM