成人式を合わせての帰省だった。
大人の仲間入りをする事に浮足立っていた。
だから、私は知る由もなかった。
私の成人を待ちかねていた人物がいることに______
短く切り揃えられた艷やかな黒髪、切れ長の鳶色の瞳が真っ直ぐこちらを見ている。
トクンと胸が高鳴った。
初めて会うはずなのに、そう思えない。
私は、この人を知っている。
予感などではなく、確信があった。
彼はそっと囁いた。
「……おかえり。迎えに来た」
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今から十年前、私が七つのころ。
神隠しに遭ったのだと母から聞いた。
夏休みも終盤に差し掛かり、家族で夏祭りに出かけた。
様々な出店、灯籠の光、笑い声。
その途中、私は忽然と消えてしまった。
夏祭りの会場、近くの神社、友人宅。
何処を探しても、私はいなかった。
村人は恐れ慄いた。
神様に気に入られ、住処に攫われてしまったのだと____生存は絶望的だと誰もが諦めた。
ところが1ヶ月後。
何もなかったかのように、家に戻ってきた。
健康そのもの。
一点違うところがあるとしたら、胸元にある牡丹の形をした痣があること。神隠しに会う前にはなかったものだ。
それが何を意味するのか、誰も分からなかった。
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「迎えにって、何処に?」
「私の住処に……昔、約束しただろう。大人になったら嫁としてもらい受ける、と」
「_________!」
そんな約束知らない。
破棄だ。時効だ。
そう叫びたかったが、声が出ない。
体も動かず、逃げることもできない。
「神との約束は反故にはできん。
_____諦めよ」
#予感
10/21/2025, 10:54:22 AM