「誰もがみんな」
彼女はクスクスと笑いながら、
俺の手首と自分の手首を鬱血しそうな程の強さで
しっかりと結束バンドで固定した。
手首を押さえつける彼女を振り払おうとするが、
先ほどのスタンガンのせいか上手く力が入らない。
そもそも、こんな華奢な女のどこにそんな力があるのか?というくらい根本的な力が強い。
ペットボトルの蓋、開けられないって言ってたのに!
「おい、ちょっ……ちょっと待て!待ってって!
誤解なんだってば!きっと君が気にしてしまった連絡は、確かに相手は女性かもしれない!でも、バイト先のおばちゃんなの!ただのバイトリーダー!シフトの連絡!」
彼女は顔色を一切変えずに、声を荒げて慌てふためく俺を見つめている。
「その連絡の事は前から知ってるし、関係ないけど?」
これじゃなかったか……じゃあ何だ?
あと、前から知ってるってどういうこと?
彼女は、ハァと呆れた様にため息をつくと、
一冊の本を俺に突き出した。
「これは……」
それは高校生の時になけなしのお小遣いを叩いて購入した、グラビアアイドルの写真集だった。
この本には、何度もお世話になりましたね。はい。
そんなことはどうでもよくて、そんな大切な本がほとんど形がわからなくなるくらい刃物であろうもので八つ裂きにされている。
「え、これ…お前がやった…の……?」
この狂気に身の危険を感じ、自然と心拍数が上がる。
逃げたくても身動きは取れない。
先手を打たれているのがまた怖い!怖すぎる!!
どうか!こういうプレイであってくれ!!との願いも虚しく、遂に彼女は包丁を取り出した。
「女の子はね、誰もがみーんな愛されたいし、
愛した人を独り占めにしたいの。
こんな、ほとんど裸の女が載っている本を、
自分の彼ピが見てるとか、無理すぎるの。
私だけいればいいでしょ?そうでしょ?違う?
大好きだし、愛してるの。貴方もそうでしょ?
だからさぁ、ねぇ?
私と一緒に幸せになるためにさ?
他の女に取られるまえにさ?
このまま一生幸せでいるためにさ、
一緒に、死んで?」
その言葉が音として耳に入ったのが、
俺の生前の最後なのだろう。
初カノだー!と浮かれていた自分を殺してやりたい。
いや、実際死んだんだけどさ。
「……と、まぁこんな感じじゃな。
悲惨な死を遂げておる。可哀想に。
いや、ほんと……ふふ。女運無さすぎ…ふふふ」
神様を名乗るお爺ちゃん、その笑いは俺に効く。やめて。
「死因はともかく、悲惨な死を遂げてしもうたお主は、
来世で少し運が良くなるようボーナスがついたようじゃ!
不運な青年よ、行くがよい!次の世界へ!」
自称神様がそういうと共に、
俺の立っている地面がパカっと開いた。
……パカっ?
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2/10/2023, 2:57:41 PM