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「月に願いを」

あの日「月がきれいですね」と微笑んだあなたを今も思い出します。初めて言葉をかわした日、ちょうど十九夜の月が上って来たのを見てあなたは言ったのでした。

今、どこにいますか?元気でいますか?幸せですか?月を見る度に思ってしまうのです。心変わりをした私を責めもせず、ただ微笑んで行ってしまいましたね。

私は幸せです。私、お母さんになったんです。小さな命をこの胸に抱いたとき、少し胸が痛みました。あなたはあんなに子どもを望んでいたのに、私は仕事を理由に先延ばしにしました。

真夜中にお乳を飲ませていると、ちょうど窓から月が見えました。満足して眠った子どもの顔を月明かりが照らしています。もしあのとき、あなたのもとで子どもを産んでいたらと、どうしようもないことを考えたりもします。あなたはきっと優しい父親になったでしょう。

あなたと月を見るのが好きでした。今はあまり好きではありません。あなたを思い出さずにはいられないから。

お月さまにこの手紙を託します。あなたが幸せに健やかにいてくれることを願っています。受け取ったら、あなたも月を見上げてくださいますか?

5/26/2024, 12:40:01 PM