一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・窓の景色で気分上々

 話の流れで友人と遊ぶことになった。駅のコンコースで待ち合わせ。
 彼女の姿を探すも、まだ到着してはいないようだ。通りに飛沫をあげる雨が降っている。思わずため息。吹き抜けのコンコースに雑踏と雨の音が反響する。
 どんより曇天、雨の空。足元は濡れるし、湿度で髪はうねるし、あまり宜しい気分ではない。
 街行く人も何処となく沈んで見える。
「ごめんごめん、待った?」
「いま来たところ」
 そんなやり取りもそこそこに私たちは通り向こうの商業ビルに行くことになった。雨を避けて遊ぶにはちょうどいい場所だ。消極的な消去法。
 雨の下、二人で傘の花を咲かせる。
 私は友人の傘が新調されていることに気がついた。「それって……」
 彼女は傘の柄をぐるっと回した。「懐かしいっしょ?」彼女のパステルカラーの傘には、一角だけビニールの窓がついていた。
 傘の視界不良を防ぐための窓付き傘は、子ども用こそ見たことがあるが、大人用は初めて見た。
「しかもこの窓、見て」
 私は友人の傘に顔を突っ込んで窓から向こうを覗く。「世界がピンクだー」
 ビニール窓は仄かにピンクで、曇天も相まって、私にくすんだピンク色の世界を見せた。
 いつもの景色が古い映画のよう。雨はフィルムのノイズで、通りを行く人も雨に光る歩道も物語の世界みたい。
 私もこの物語の一部だと思うと、何か気分が上がってきた。
「何かちょっとキュンってならない?」と、友人に問いかけられて私は大きく首を縦に振った。
「なるなる! この窓を通して動画を撮れないかなぁ?」
「おっ! やる気ですなぁ。そこの公園で踊って、動画をバズらせますぅ?」
 目的地変更。積極的に攻めて行こう!
 流行ってる曲とかダンスを相談しながら、意気揚々と私たちは公園に向かった。

テーマ; 窓から見える景色

9/26/2024, 1:05:03 AM