ただの社畜

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「俺は認めへんぞ!!」

広くはない病室のベットから悲痛そうに叫んだのは、いつもは元気に動き回る緑の彼だった。

「これは決定事項だ。お前はいま万全じゃない。
 そんなお前を戦場に送る気はない。以上だ」

そして、そう冷静に彼に告げた彼はこの軍を束ねる総統を務める黒の彼だった。

明日、この軍の運命に関わるといっても過言ではない戦争が起きる。
そんな中、今ベットに縛り付けられている彼は、先日の任務で結構な深傷を負い、病室の主に先ほどドクターストップをかけられていた。

「百歩譲って、俺が待機なのはいい。
 で、でも。でもなんで」

全然納得してない顔で、言葉に詰まりながら続ける。

「でも、なんで。アイツが最前線なんや!!!!
 そんなの認めへんぞ!!!!!」

「はぁ。もう決まった事や。飲み込め」

威圧するようにいつもより声を落として言う。

おれのいつもの役割は司令塔。あっても後方支援までだ。
それ以上でも以下でもない。
つまりお前が言いたいことは、

「おれじゃあてにならないってことか?」

そう少し傷ついた演技をする。
そんな簡単な事で、彼はまた開きかけていた口を閉ざした。
そう。彼は優しいのだ。仲間が傷つくことを好まない。
自己犠牲型では無いが、自分の命より仲間の安否の方を優先させる。
それは、彼の出生や性格、これまでの積み重ねによるものだが、それを知るものは幹部のなかでも極僅かだ。

「おれが強いこと知ってるやろ?
 安心してお前はそのベットで神と一緒にお留守番しとき?」

彼を安心させるため、この会話を終わらせるためおれはそう言って、彼の頭を軽くなで椅子から立ち上がった。

「ん?なんだ、もういいのか??」
「うん。それに会議で決まったことを伝えにきただけやろ。おれも準備とか通常業務とかあるからもう戻るよ」

立ち去ろうとするおれの袖を咄嗟に掴もうとする彼の手を自然によけ、振り返り言った。

「後で監視室用のPCもってきてやるから、
 俺の勇姿見てといてな?」

そう言い残し、有無も言わさずおれたちは病室を後にした。

お前はそこで。手も足も、アイツに限っては声すらも届かない場所で戦場をカメラ越しに見とけば良い。
毎回、おれがどんな気持ちで戦場や敵地にお前たちを送り出しているいるのか。
終始、その戦っている姿を上から見ているか知るといい。知ってしまえばいい。
…いや。知れ。その鋭すぎる目で、回りすぎる頭で、殺意を感じやすい身体で。お前の五感全てで感じろ。そして理解しろ。

お前の相棒が誰なのかを。
お前のライバルが誰だったかを。

「そこで見とけよ相棒。努力が才能を上回る瞬間を」







「お前が強いことなんて昔から知っとるわ、アホ…
 頼むから。頼むから活躍せんといてな相棒。」

「お前が強いことが世界にバレてしまうから、、」

そう小さく溢れた本音は誰にも聞かれる事なく、独り静かな病室に溶けていった。


お題「病室」

8/2/2024, 6:10:53 PM