こっこ

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視線の先には


真夏の蒸し暑いきょうしつで、黒板の音だけが聞こえる5時間目の憂鬱。
人見知りの僕はクラスでも一際目を引く、黒髪の綺麗な斎藤あすみさんとまだ一度も話せないでいる。
こんな僕だから、何きっかけで話しかけて良いかも、全く想像できない。
時々自分がなさけなくなる。
先日席替えをしたばかりで、斜め右端の席には憧れの斎藤さんが座っている。
授業もそっちのけで、僕の視線の先には後ろ姿の斎藤さんが今日もきちんとノートを取っていた。
休み時間クラスでも目立つ、イケてる男子の蓮見蓮が、「お前授業中斎藤の方ばっか見てるよな!」
僕は恥ずかしくなって、顔を赤らめ下を俯いた。
聞こえている…絶対に斎藤さんに聞こえている。
恐る恐る顔を上げた視線の先には、にっこりほほえむ彼女がいた。
「別にいいよ。ガン見してくる訳じゃないし。」
優しい。彼女はそれからずっと僕の中で神となった。
相変わらず、何も話しかけられない僕だけど。
汗ばんだシャツの中を爽やかな風が通った気がした、17の夏。

7/19/2024, 8:40:08 PM