未知亜

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ㅤしゃくり、と軽い音がして顔を上げた。テーブルの隅で、誰かが梨を齧っている。通所して3ヶ月、見たことのない顔だった。
ㅤ就職困難者、と呼ばれることに違和感が無くなり始めていた。なるほど、自分は確かに、就職が困難な者なのだろう。3ヶ月頑張っても針の先も引っかかる気配がない。
ㅤ気を落とさずに頑張りましょう、と初めて会った頃と変わらぬ口調で今野は発破をかけてくる。味方の存在だけで嬉しかった気持ちは、気づけばどこかへ消えていた。
ㅤおにぎりを食べ終え、デザートを詰めたプラスチック容器の蓋を取る。その間も、しゃく、しゃく、と静かな音が続いていた。俯いて果実を齧るあの人もまた、いい知らせは無しのままなのか。
ㅤ味方とも仲間とも思うつもりはないが、昼食に同じフルーツを持参していた事実が、今の私には妙に心強く思った。

『梨』

10/15/2025, 9:57:32 AM