「あんたがものを受け取るなんて珍しい。特に花は嫌いだって言ってなかったかい」
「ええ、好きじゃないわ。でも今回はお断りする理由がなかったの」
「……相手はあのお客か」
「うふふ。好きな人からの贈り物って、なんでも嬉しいものね」
そう言って女は腕の中の花束を大事そうに抱え直した。どこに飾ろうかしら、と鼻唄でも歌うように呟くその表情は、向けられればころりと相手を落としてしまう甘やかなもの。恋する乙女の顔をした女を前に、女将は深くため息を吐いた。
「悪い女だよ、まったく。贔屓の客に自分の好みも教えてやらないなんて」
「健気って言ってちょうだい。それにね、あの人は贈り物に意味を込めているの。その意味を直接言葉で伝えてくれない限り、本当のことは教えてあげないわ」
「ロマンチシズムってやつかい? 向こうの方がよっぽど健気だねえ」
「可愛いでしょう? ……女将さん、手を出しちゃダメよ」
「安心おし。あんな若造、あたしの趣味じゃないよ」
「まあ! ふふ、そんな言い方はないじゃない?」
女将の言葉をたしなめながらも、女は肩を揺らして楽しげに笑った。その様子に呆れを隠さぬ女将との間、女の細腕に抱かれて、房状に咲く黄色の花はやわらかく揺れているのだった。
3/26/2023, 2:42:37 AM