300字小説
花筏
「おら、そろそろ故郷に帰る」
節分の夜、ヒイラギの木の下で傷だらけになって泣いていた小鬼が舞い散る桜を見て言う。
「おねえちゃんのおかげで傷も治ったし、冬も越せた。そろそろ帰らねぇとおとうとおかあが心配する」
「……そっか。帰り道は解る?」
「桜が教えてくれる」
近所で評判の美味しい桜餅を買って土産に持たせる。帰るには桜の花びらが作る花筏に乗るらしい。近所の堤防に向かうと桜並木の間、快晴の空の青を映した川が桜吹雪に薄い紅色に染まっていた。
「じゃあ、おらいく」
小鬼がぴょんぴょんと河原に下り、花筏に乗る。
「そうそう」
川面から私を見上げ、彼は黒いモノを持った手を振った。
「おねえちゃんの厄、貰っていくからなぁ」
お題「快晴」
4/13/2024, 11:59:46 AM