待っててとは言ったものの、さすがに10年は長すぎた。
そのくらいあれば、こんな俺でも成功するチャンスをつかめると盲信してしまった。
あの娘を待たせて、見違えるように立派になって再会しようと目論んだが、人生そう上手くはいかない。
挫折を繰り返して、辛酸を嘗めた。
世の中そんなに甘くないと思い知らされた。
そして3年後、風の噂で、あの娘が結婚したと聞いた。
人生、どうにもならなくなって、詐欺ビジネスに手を染める。
あの手この手で人を騙していくうち、ある男と知り合い、彼が仲間とお金を出し合って起業を計画していることを知る。
聞けば、なかなかの規模の会社を起こそうと、かなりの資金を準備しているらしい。
うまく口車に乗せて、あの手この手のノウハウを駆使して、そのお金を根こそぎ奪い取った。
そして10年後、あの娘と再会を約束した空き地に、俺の名前を冠したビルを建てた。
今さら会えるわけもないと思っていたが、この思い出の場所を失いたくなかった。
あの娘は今頃、どこで何をしているのだろう。
約束の日の朝、出勤すると、
懐かしい後ろ姿がそこにあった。
信じられない思いで、「やあ」と声を掛ける。
我ながら間の抜けた再会の言葉だったが、
振り返ったあの娘は、あの頃と何も変わっていなかった。
その先のことは、修羅場があったりロマンスがあったりだが、それはまた、別のお話。
ただ、このビルを建てた資金のほとんどが、彼女の夫が用意したものだということは、墓場まで持っていくつもり。
2/13/2024, 1:25:38 PM