わをん

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『明日世界が終わるなら』

仕事終わりの帰り道。同期とそんな話になった。映画なんかでよくある描写には助かるかもわからないのに遠くへ逃げようとする人たちが列をなして渋滞を作り出したりしている。
「そんなことするぐらいなら、美味いもん食って死にたいよな」
きょうの晩ごはんの買い出しに寄ったスーパーで食材を吟味し、おつとめ品として値引きシールが貼られたワゴンにも目を光らせながら巡回する。ひき肉が入っていたカゴの中に新たにナスが投入された。
「僕らの世界が明日終わるとしたら、最後の晩餐は麻婆茄子になるわけだ」
「他に食べたいものあったか?」
「そうだな……」
たまたま卵コーナーを通りがかって、高級な卵が目に付く。
「卵かけご飯かな」
いつも買う12個入りのものより倍以上も高い卵をじっと見ていると、それが手に取られてカゴの中に大事そうに入れられた。
「明日の朝も世界が無事だったら、お祝いに一緒に食おうぜ」
ほほえみながらレジ列へと向かう同期に後光が差しているかのようで思わず拝んでしまう。
きょうも一日が無事に終わろうとしている。明日も無事に一日が始まることを願いながら、未知の高級な卵かけご飯に想いを馳せた。

5/7/2024, 3:54:03 AM