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柚子の香り

柚子の香りが好きなんだ。前にそういったのを覚えていたのか、彼からは彼がいつも身にまとっている香りではなくほのかに柚子の香りがした。
聞くと柑橘系の香水を買ったらしい。
理由についてはどれだけ問いただしても教えてくれなかったけれど。

店頭で、とても好きな香りの香水を見つけた。
私は普段香水をつけない。そのままの香りが好きと言われることが多いから
でもこの香水はずっと身にまとっていたい、これを私の香りにしたいと思えるほどに好きな香りだった。冬の寒い日を感じさせる、柑橘系の香りがほのかにする香水
「いつか付けていくね」なんていったけどそんな日は永遠に来なかった。
私ももう、彼の身に纏う香りを忘れた。柚子の香りなんて忘れてしまった。

冬は気温が寒いから、香水と体温が反応してより香りを纏いやすくなるのだと私は思う。
隣に座って一緒にバスに揺られる彼からは、紅茶の香水の香りがした。
「紅茶の香りする、香水?」
「そう。よくわかったね、家出る時にほんの少し身にまとったくらいだからもう取れてると思うんだけどな笑」
「私鼻は誰よりもいい自信あるんだ笑いい香りだね」
「君もいい香りだね笑なにか香水つけてるの?」
地雷を踏まれた。この人はどれだけ私の地雷を踏んだら気が済むのだろう。
「ううん、つけてないよ笑」


女の子の恋心は上書き保存、なんて世間では言うけれど私は違うみたいだ。
香りの記憶も何もかも上書き保存はされなかった。

12/23/2022, 6:49:34 AM