研究所の花壇に植えられた花々が、斜陽の下揺れている。
腕時計を見れば、針は午後5時半過ぎを指していた。
日の入りと終業時刻まで残り30分程だ。
手についた泥を払い、花壇に植えられた花々を見渡す。
赤いチューリップ、アントシアニン類+カロチノイド。
オレンジ色のチューリップ、こちらもアントシアニン類+カロチノイド。
黄色の金魚草、フラボン類。
紫色のパンジー、アントシアニン類。
まだ、若葉を出すばかりなのは
赤紫色のオシロイバナ、ベタシアニン類。
黄色のオシロイバナ、ベタキサンチン類。
緑色のアジサイ、クロロフィル。
白いユリ、フラボノイド。
春から秋にかけて花壇は彩り豊かな一角になる。
本来自分の専攻は、花の色素についてだ。
だというのに、研究の為に花を育てる延長線で肥料やら病気の為の薬やらを作っていたらそっちがメインになってしまった。
人生とは本当わからないものである。
そもそも自分は、大学の研究者になって色素の応用を研究する予定だった。品種改良や自然染色を活かした製品の開発などを夢見ていた。けれど、恩師に嵌められて、気づけば企業の研究員になっていた。
本来思い描いていた未来とは違う道を進んでいるというのに…。
小さな研究所で本来の研究とは違う仕事に向き合うのが苦でなく、寧ろ楽しいとすら思っているのだから、最早つける薬はないようだ。
企業から求められる仕事に応えて、花の色素の研究もこっそり進めて。企業の名前に隠れて自分の名前は出さず、陰ながら環境にも人にも優しいものを提供し、研究を還元し続ける──なんて自分にあった生き方だろうか。
研究所の主は、風に揺れる花々に穏やかな目を向け微笑むと、遠く沈む夕日を静かに眺めた。
4/7/2024, 12:08:08 PM