唯一無二の親友でした。
出会ったのは、小学一年生の頃。満開だった桜が風に揺られて舞い上がっていました。
散りゆく桜を私は捕まえようと、夢中になって走り回ってました。突然、強い風が吹いてバランスを崩して、転びました。
風が止み、涙を堪えている時に声をかけられました。顔を上げると、そこにはとても綺麗な女の子がいました。こちらに伸びた彼女の手を握ると引っ張り上げて起こしてくれました。
砂を払っていたら私の手のひらと膝に擦り傷ができていて、血が滲んでいました。知らない子の前だから気丈に振る舞うつもりでしたが、彼女はとてもビックリしていて。次の瞬間には私の手を取って歩き出しました。その後は校舎の水道に連れて行かれて水で洗い、保健室に連れていかれました。
そこから話すようになって、休日に遊んで、中学も高校も大学も同じところへ進みました。クラスは離れてしまうこともありましたし、私も彼女も他に友達ができることもありました。
でも、私たちはお互いが一番の親友でした。それだけは、確信しています。
同じ職場へ就職することは難しく、別々のところで働き出しました。私は初めて離れたからすごく不安で仕方なかったのですが、彼女は笑ってこう言ったんです。
「もしどこか遠くへ行っても、私とあなたは運命共同体だよ」
って。
働き出して目まぐるしい日々を送る中、だんだん連絡が途絶え気味になってきました。お互い忙しいから仕方ない、繁忙期を過ぎればまた会える。そう言い聞かせて彼女からの連絡を待ちました。
一週間、一ヶ月、半年……。もっと胸が張り裂けるような、壮絶な感情に支配されると思っていましたが、案外へっちゃらでした。そのうち、彼女を待つという意識すら忘れてしまいました。
だから、連絡が途絶えて一年と一ヶ月あまりの日。
突然、彼女が現れた時は驚かされました。
元々美人な子だったけれど、さらに垢抜けて華やかな雰囲気でした。身に付けているものは高級なブランド品ばかりでしたし、明るい髪色と濃いメイクでより美しさを際立たせている感じでした。甘くて艶やかな香りも、私が知らない彼女そのものでした。
あまりの変わりように私は言葉を失いました。彼女も特段身の上話はしませんでした。会えてなかった約一年の間に何があったのか。今でも分かりません。
唯一、彼女が口にした言葉は、
「どこまでも一緒にいようね」
と。
私は頷きました。また彼女と一緒にいられるなら、たとえ地獄だろうと行けると心から思ったんです。
でも同時に、いつもと雰囲気が違う彼女に対して少し怯えていました。身なりは大分派手でしたが、彼女です。でも、目の奥が笑っていないというか、冷め切ってしまっていたというか。まるで心の奥でとんでもなく恐ろしい獣でも飼っているのではないかと。
彼女はもしかして、何かよからぬ事を企んでいるのではないか。
一度疑ってしまうと、どうにも怖くて。怖くて怖くて、仕方ありませんでした。
だから、怖くない彼女に戻ってもらおうと思いました。
私が、他の誰よりも、ずっと、彼女のことを知っていた頃に。
後は、皆さまがお調べしてくださった通りです。
抵抗する彼女をなんとか床に倒して、重たい花瓶で頭を殴りました。いかんせん大まかな計画しか立てていなかったので、指紋を拭き取って、この町へ逃げ込みました。ありきたりな殺人事件のはずなのに、私のところまで辿り着くのが遅かったから逆に焦ってしまいました。
どうぞ、任務を遂行なさってください。
私はもう逃げも隠れもしません。
私のことをよく知っている彼女が、かつてこう言ってくれました。
「堂々としているから間違っていても分かりづらい」
と。
『誰よりも、ずっと』
4/10/2024, 8:23:49 AM