《わぁ!》
「わぁっ!」
ある日の放課後、僕、紅野龍希が部活に行こうと格技室に向かって歩いていると、後ろから誰かにアタックされた。
「うわっ! だっ、誰ですかっ! って……夏実さん?!」
振り向くと、そこにいたのは同じクラスで僕と同じ剣道部員の中川夏実さん。ちなみに彼女とは共に県警に出入りして警察見習いのようなことをしているので、他の人よりは距離が近い。
「あははっ、びっくりしたー?」
「そりゃびっくりしますよ! なんですかいきなり!」
「いやー、ちょっとやってみたかったんだよねー」
「なんなんですかホント……」
「ごめんごめん。ちょっと面白そうだったんだもん」
夏実さんが少しシュンとして言う。そういえば夏実さんは僕たち5人(僕、ハル、蒼戒くん、夏実さん、熊山さん)の中では1番無邪気なんですよね……。
「別にいいですけど……。ところで夏実さんもこれから部活ですか?」
「そう。そろそろ大会も近いから頑張んないとねー」
「ですねぇ……。そういえば団体戦のメンバー発表もそろそろですよね」
僕たちは一緒に格技室に向かって歩きながら話をする。
「うんうん。あたし団体戦入れるかなー」
なんの話かと言うと、来年の頭に行われる剣道の親善大会のメンバーの話だ。
団体戦は大将、副将、中堅、次鋒、先鋒と補欠2人で、この中に入れるかが問題なのである。ちなみに蒼戒くんいわく個人戦は3枠あるそうで、できればこっちにも入りたいところである。
「夏実さんも結構強いですし大丈夫じゃないでしょうか」
「そうだけどさー、上には上がいるじゃない」
「女子で言うと……、河井さん、磯川さん、西荻さん、田村さんとかですか」
「うん。みんな強いんだよねー。男子で言うと、蒼戒、東堂くん、堀江くん、霜月くんあたり?」
「そうですね。蒼戒くん、東堂くん、堀江くんあたりは確実だと思います」
「あの人たち強いもんねー。特に堀江くんなんて一年生なのに紅野くんに張り合えるくらいに強いじゃん」
「そうなんですよ。彼伊達に蒼戒くんのファンやってないですよ」
さっきから話題になっている堀江くんは僕たちのひとつ年下で、蒼戒くんの『ファン』である。よくわからないけど、なぜか蒼戒くんに心酔していて、蒼戒くんをしょっちゅう追いかけている。そのおかげで剣捌きが蒼戒くんにそっくりで、かなり強い。
「だよねぇ〜」
そんなことを話していると、キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。
「嘘、もうこんな時間?!」
「急ぎましょう! 遅れたら何言われるか……!」
「もう遅れてるけど急ごう!」
というわけで僕と夏実さんは格技室まで猛ダッシュする羽目になった。
(おわり)
2025.1.26《わぁ!》
1/26/2025, 4:55:07 PM