香音

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      ひも、と呼んでいたそれを
      片時も離さなかったらしい
      あれがないと泣くんだって
      それでは見た目が悪いから
      困り果てた大きな人は私に
      着物の切れ端で丁寧に作り
      持たせたけど違うんだって
      あれがないと泣くんだって
      どうにかこうにかなだめて
      持たせたんだ大変だったと
      聞いた時にも側にはあった
      中学生になる頃に母が言う
      もう子供じゃないんだよと
      部活から帰宅した日のこと
      ひも、は捨てたと母が言う
      その日からひとりになった
      寂しい気持ちはあったけど
      もう子供じゃないのだから
      何年も過ぎてから母が言う
      実は捨ててはいなかったと
      駄目なら渡すつもりだった
      お母さんの作戦成功したわ
      嬉しそうに笑っていたから
      風鈴が涼やかな音で鳴った
      吹く風は花の香りがしてる
         

          『遠い日の記憶』

7/18/2024, 1:58:29 AM