授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。先生の説明を静かに聞いていたなんて嘘のように教室が賑やかになった。
「お腹が減った」「遊びに行こう」「練習試合が待ちきれない」とみんな思い思いのことを言い合って、担任の先生が連絡事項を伝えてくれる間も賑やかさは変わらなかった。
みんなこの後の予定が楽しみなのだ。私も『放課後』を待ち望んでいたそのひとり。
教室を出て階段を下りているのに普段よりも長く感じてしまう。早く早くと着いた靴箱はやっぱり混雑していた。彼が門の前で待っているのに、人波がなかなか引かなくてもどかしい。彼は人目を惹く容姿をしているから囲まれていないか心配だった。学校のマドンナが彼にアタックするだとか噂も立っていたから余計に。
結果は、杞憂に終わった。彼は別のものに囲まれて私の想像通りにはなっていなかった。彼の足下にはにゃぁ~んと猫が転がって気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
「あんまりくっつかれると毛がついちゃうんだけどな」
彼に撫でられている猫を羨ましく思った。大きなあったかい手は安心するから、私以外を可愛がっている彼の手に、猫に。ちょっとの嫉妬心。
「君も撫でたい?」
ほら、と撫でる手を止めて場所を開けてくれるけど猫は私を見もしない。そろそろ手を伸ばして撫でようとしたらシュッと鋭い爪が。そのまま猫は威嚇して去ってしまった。
ポカンとする私の手につぅーっと現れる赤い線。ヒリヒリして次第に赤が垂れる。そこに彼の唇があたっていた。あまりに自然で猫に舐められたようなざらりとした感触は一瞬で幻のようにすぐに離れた。パクパクする私に彼は一言。
「消毒」と。
「…驚かせちゃったかな」
「臆病な子だったかもしれないね。大丈夫、次は仲良くなれるさ」
血が流れないことを確認して彼はホッと息を着いた。ペタリと貼られた絆創膏はなんとも可愛い猫の柄。彼の指先にも同じものが巻かれていた。
「妹が持たせてくれたやつだよ。俺より君がつけた方が可愛いや」
「お揃いだね」
私は手の甲だけど意図せずにお揃いになったことが表情に出てしまう程に嬉しくて絆創膏を猫の代わりに撫でた。一緒に帰るだけなのが少し惜しくなる。
「…放課後デートにしようか。君の好きなフラペチーノの新作出ていたんだよ」
こっそりと期待した言葉をくれる彼はどうかな?と小首を傾げて、私が頷くのを待っている。
10/12/2023, 11:54:27 PM