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スリル

 破れ寺の薄暗い廊下を、二人並んでバタバタと走る。
「誰だこっそり潜入してさっさと任務を終わらせようなんて言い出したのは!」
「お前だ」
「俺だな!」
 全速力で走りながらいつもどおりの冷静な突っ込みに笑いつつ、朽ちかけた障子を破って現れた敵を斬り払う。後ろからだけでなく左右からも襲いかかってくる敵の気配を察する余裕などなく、とにかく足を止めずに走りながら戦うしかない。
「お前の好きな驚きの展開だろう」
「こんなもの、お約束の展開で驚きも何もないぞ! いや、あまりにも定番すぎて逆に驚きなのか? どう思う?」
「知るか」
 敵に見つかったのは失敗だが、任務そのものは成功しているのであとは二人揃って無事に帰還するだけだ。長い廊下の先にようやく見えた木の戸を、同時に振り上げた足で勢いよく蹴破る。朝焼けの光が差し込む中ぴょんと庭に降り立ち、振り返って刀を構えた。
「さて、反撃といこうじゃないか」
「息が上がっているぞ」
「君もなァ!」
 息をひそめて潜入していた時よりも、どこから現れるのかわからない敵に追われながら全力疾走したことで心の臓が早鐘を打っている。
「いやぁスリル満点だった」
「二度とごめんだ」
 心の底から吐き出された、疲れ切った声に思わず笑ってしまった。
「俺もしばらくは遠慮したいな!」

11/12/2023, 3:39:58 PM