ふわりと香る薔薇の花と視界に広がる一律の花園。その真上には―――煌々と輝く紅い月が私の世界に色を映している。
この星は既に破綻していた。
明けない夜の帳と常に不気味な色の月。
日が昇らないから作物も工夫しないと育たず、生命を宿すものはほぼ短命になっている。
ほぼ、と表現したのはこの破綻した環境に対応するべく⋯⋯進化した人類が一部いたからだ。
それが新人類と呼ばれる“吸血鬼”という存在だった。
かくいう私もその内の1人の直系に辺り“原初の吸血鬼(ファースト)”と呼ばれる者の子孫である。
その為に純血種と呼ばれる吸血鬼との結婚を強いられているが⋯⋯もう、純血種は殆ど残ってはいないので相手探しに苦戦していた。
大体の吸血鬼は旧人類に殺されている。人類由来での進化のため、吸血衝動等というモノはあまりなかったが⋯⋯その身体能力と血液を経口摂取し続ければ常に若い体を保てるというのが、彼等には不気味に見えたらしい。
かくして―――第一次新旧代替戦争の始まりである。
そこから数年で戦争は終結したモノの、やはり旧人類側が仕掛けてきて第二次新旧代替戦争が始まり⋯⋯そこで互いの殆どを殺し合う形になり、このままでは共に滅亡しかねず何とか互いに共存を締結させた。
書面にもしたが、それは上層の人達の話で⋯⋯戦争が終結した後も、一般の人達が私刑をし続け私達純血種と呼ばれる存在の殆どは居なくなったというわけだ。
唯一私の家は一族全てが残れたが、相手の純血種を見つけるのが困難な状況に頭を抱えていた。
親族は一族繁栄のためと躍起になっているが、私はこのまま星と共に緩やかに終わりを迎えたいと思っている。
昔あったという昼を知らず、少しずつ生命が減っているこの星で、繁栄することに何の意味があるのだろうと思ってしまう。
それならば―――私はあの煌々と輝く月に見守られながら、大好きな薔薇に埋もれて眠りたいのだ。
ざぁーーっと風が吹き抜けていく。
昔お祖父様に頼んで領地として与えてもらったこの丘は、私の大好きな薔薇の花で埋め尽くされている。
そこで朝とも夜とも分からない。明けない夜と沈まぬ月の光に包まれながら、そっと薔薇の中に体を横たえる。
明日はどうか目覚めませんように。
そう祈りながら、今日も薔薇に埋もれて眠りについた。
5/1/2025, 12:20:09 PM