少し、昔話に付き合っていただけますか。
私は、昔から社会のルールに懐疑的な子供でありました。
どうして人のものを取ってはならないのか、どうして人の家に入ってはならないのかが理解できなくて、よく人様のものを盗って、人様の家に入り込んで、その度両親から酷く叱責を受けました。
だって、どうしたって理解できなかったのです。
野生に生きる動物たちは、いつだって生殺与奪の権を己で握っていて、弱い者が淘汰されるのは当然で、弱ければ奪われるのだって当然。
強い者は全てを手に入れ、長となり、やがては群れを率いる。
強い者が弱い者のものを奪い、領域に入り込むのは当然のこと。
それが自然の摂理であるというのに、何故人間だけがそこから外れるのでしょう。
いつから人間は、己が自然の輪から外れた例外であると勘違いしたのでしょう。
そんな人間の作った決まり事が、私は心底嫌いだったのです。
幼い頃から、私は生命の内側に興味がありました。
骨の無い、柔らかな腹の内側が、堅牢な骨の寝台に横たわる、とろりとした脳の髄が、あまりに愛しく思えたのです。
人々が美しい宝石を欲しがるように、私もそれらに触れたかった。
命を繋いでいるその肉片たちがどう動いて、どう生きて、どう死んでいくのかを、この目に収めてみたかった。
そんな幼稚な探究心を、捨てきることができませんでした。
……ええ、ええ。そうです。この探究心こそが私の罪なのです。
人間は本来、他者との境界線がもっとはっきりしていて、他は他、己は己だと線引きができているのでしょう。
だから、他のものであるものは取らないし、他者の領域は侵さない。
そんな決まりが、私には分からなかったのですよ。
侮蔑されますか。それなら、貴方はきっと、堅実に人間として生きてこられたのでしょう。
……おや、もう行ってしまうのですか。
また明日を待っていますよ。どうせ、時間は有り余っておりますから。
なんせ、私は百人を殺して、百人の中身をこの身に収めた殺人犯ですから。
そう心配されなくとも、私のための部屋で大人しくしておりますとも。
……それでは、また。私の看守さん。貴方の中身も、私は気になるのですがね。
テーマ:ルール
4/25/2026, 8:23:00 AM