しあ

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お世辞にも良好とは言えない家庭に生まれ育った私は、ずっと平穏な日常を望んでいた。

例えば少しだけ早起きして夜と朝が溶けた空を眺めるとか、お弁当に入らなかった卵焼きの端っこと白米をインスタントのお味噌汁で流し込んでみたりとか。自分には無縁であろう都会の流行特集をしている情報番組を横目に身支度を整えて家を飛び出す。きっと駅に到着した頃には鍵を閉めてきたか不安になって考え込んでいるだろう。

こんな生活なんて馬鹿馬鹿しくて呆れられてしまうかも知れないが、それでも私はその程度の生活に憧れていた。身の丈に合うそれなりに堕落した一般庶民の生活───こういうので良かった、はず、なのだが。


玄関を開けると目の前には2人の男性。表情筋はおろか目線すら動かない少し強面のおじさんを見て、ぽかんと口を開けたまま身動きが取れなくなってしまった。

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬‪✕‬さん、署までご同行願えますか?……おおよそ理由はご自身で検討はついているかと思いますが」


この瞬間、私のささやかな願いはどこかに消え去ってしまったのだ。

3/11/2024, 3:47:23 PM