風呂上がりの濡れた髪の毛を、節くれだった彼の指がすり抜けていく。
ドライヤーを左右に揺らしながら私の頭皮を揉むように優しく髪の毛を乾かしてくれている。
6畳一間の狭いワンルームに180センチを超える彼が転がり込んできたのは今年の夏のことだ。
この部屋より何倍も広くて、部屋数の多いマンションを持っているくせに、ある日から何故かそこに帰らず私の住むこのアパートに帰ってくる様になったのだ。
冬が本格的になり、昨日私は炬燵を出した。
布団、テレビ、本棚、そこに炬燵を出すのだから部屋は当たり前に狭くなるのだけれど、そこに今年の冬は彼がいる。控えめに言ってもかなり狭い。
私の髪の毛を乾かし終わったらしい彼は、漸く自らの髪の毛を乾かし出した。
私は彼の足の間から出て、炬燵に入った。スイッチを入れていないのに何となく暖かい気がする不思議。脳みそが勘違いをしているのか、なんてぼんやり考えていると彼に名前を呼ばれた。
「ほら、あーん」
「ん、」
口に放り込まれた一粒を条件反射に噛むと、プチンと薄皮が弾けて酸味の効いた果汁が口に広がった。風呂上がりの熱った体に染み渡る水々しさに思わず声が漏れた。
「わっ、美味しい!どうしたのコレ」
「んー?炬燵と言えばコレだろ?」
私の横に座った彼がテーブルの上に一枚ティッシュを広げてそこに剥いた皮を置いていく。一粒千切って自分の口に入れて、また一粒千切って今度は私の口に。
そうやって交互に口に運ばれて4つも食べてしまった。
「見てコレ」
私の目の前に出されてた彼の親指はみかんの汁で黄色くなっていた。私の為にいくつものみかんをむいてくれたからだ。
その親指をあむ、と口に含んで感謝を込めて丁寧に舐めた。舌を這わせて、時々吸って。
「みかんの味した?」
「ううん。指の味」
「はは」
「また買ってきてね」
「またお掃除、してくれるならな」
#みかん
12/29/2022, 11:39:10 AM