300字小説
結婚祝い
『遠くに行きたい』
それが子供の頃、友達だったミッちゃんの口癖だった。
『遠く遠くの空へ』
当時は知らなかったけど、お父さんとお母さんが離婚協議で揉めていて、ミッちゃんはおばさんの家に預けられていたらしい。でも、おばさんも無理矢理預けられたらしくて、ミッちゃんは私が家に帰っても、いつも夜まで神社の境内で一人で遊んでいた。そして、ある日、境内に靴と大きな烏の羽だけを残して行方不明になった。
結婚式前日、実家で過ごす最後の日。ミッちゃんのことを思い出しながら、神社にお参りする。誰そ彼の空から大きな羽音が降り、三本足の烏が鳥居から
「ガァ」
と、どこか聞き覚えのある声で私に向かって鳴いた後、夕空に消えていった。
お題「遠くの空へ」
4/12/2024, 12:12:42 PM