あやや

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 オリキャラ注意

ルニス▶︎口調は堅いが中身は軽め。サバサバした性格でバトルジャンキー。旅をしていたが、旅を終えて数ヶ月前に日本のある街へ引っ越しした。
アリス▶︎通称勇者くん。優しく、強く、頭がいい小学生。みんなから慕われているが、彼が殊更気にかけるのはサシャである。
サシャ▶︎とある街に住む三姉妹の末の妹。姉2人に溺愛されている。あまり外出しないが、性格は優しくあまり暗いところはない。ほとんど出番なし。


 空は沈んでいた。
 対して深刻な感じではない。
 灰色になった空は、雲に覆われ色彩に乏しいが、沈み込むというほどでもない。沈み込むというのは、なんというか雨が降って、もっとじめじめとした空気が漂うものだ。ルニスは、そう思っている。
 ルニスは何事に対しても感覚で感じ取るような人間であった。彼女の言葉遣いや、口調やらは堅く、生真面目で理知的な印象さえ受けるが、実際の内情はそうではない。彼女は存外にフランクで、雑である。
 この街に引っ越してきたのは数ヶ月前。まだ大したコネクションもなく、しかしながらコミュニケーション能力に苦労することのない彼女には親しいご近所さんはいた。いたが、それはやはり大したコネクションではない。彼女の友人というのは大方旅の途中で出会った、たまたま気が合う人物で、そのように気が合う人物を彼女はこの街で未だ見つけられていない。
 旅は終わり、しばらくはこの町でゆっくり過ごそうと思っている彼女にとって、人間関係はいずれ解決する問題である。恐らく。
 さて、彼女は足を組み直した。日が当たらないというのに日向ぼっこのように公園のベンチでくつろいでいるのだ。その心情はなんということもない、ただ暇だから散歩に出て、ベンチに腰掛けてみただけだ。
 きゃいきゃい子供たちが遊び回っているが、曇天の中だとその笑顔も曇って見える。もったいない。
 たまに数人、子供がこちらを向き、不安そうな顔をするので、その度にルニスはにこりとして手を振ってやるのだが、基本的には顔を背け逃げられてしまった。
「泣かれないだけマシか」
 顔に圧があるらしい。笑っても圧が取れないなら諦めている。これでも、子供には優しい方だとは思うんだが。
 
 公園に通る道の先の方から違う子供たちの声が聞こえ、なんとはなしにそちらを向く。大人が2人と、十数人ほどの子供たちが一列になって公園に来ている。年齢層の広さから見るに、保育園ではなく近くにある教会運営の児童養護施設の子供達だ。今日は休日であることにようやっと気づいた。無職のルニスには休日など関係がない。
 休日なのでと、公園に小学生を連れてきたのだろう。大変だな、と他人事。実際他人事だけど。
「確か教会といえば、あそこの次女が働いてたか」
 脳裏に三姉妹が浮かぶ。白い髪をした三姉妹。存在感は抜群で、特に姉2人はよく噂になっている。長女の方は自分と同じ無職なので変な噂、次女は教会でシスターをやっているので良い噂が多い。ただ、末の妹はあまり話を聞かない。というかあまり外に出ないので、噂にすらならないのだ。
 実はルニスは過去何回もその三姉妹に出会っているので、引っ越し先に彼女達がいるのは一種運命的なものすら感じる。
 正直あの三人が姉妹であるかを疑っているのだが、側から見れば姉妹でしかない。そこに生じる違和感は単なるルニスの勘である。ただ、姉2人の妹への溺愛は少々度を越しており、誰がみても少しはおかしいと感じる様子であることは言っておく。
 しかしルニスもしっかり調べるほど三姉妹に興味がないので謎のまま。
 
 やってきた子供たちは、引率の職員だろう2人に色々話をされてから、散開して遊び始めた。小学生といっても幅広いので、その遊び方も様々だ。しかし、高学年だろう子供たちは小さい子供たちに付いて色々教えてあげたりしているようだった。なんとも微笑ましい。
「……おお」
 そしてその高学年の中に、眩い少年が1人いた。眩いというのは、なんというか全体的に眩いのである。どういう事情なのかそもそも日本籍ではないだろう彫り、曇り空の中でも何故か輝く金髪、その微笑みの優しさ。顔立ちは麗しく、絶世のと付いてもおかしくはない。
 その上、その性格といえば!
 低学年の子供に微笑みかけ、怪我をすれば逐一慰め、準備良く絆創膏を貼ってやる。道ゆく人々にも礼儀正しく、挨拶されれば優美な仕草で挨拶し返す。
「勇者って感じだな……」
 いや、どちらかというと王子かなとも思ったのだが、どうやら彼は以前から話に聞いていた「勇者くん」らしい。
 
 というのも、先ほども言ったように教会運営の児童養護施設であるから、もちろんそこでシスターを務める三姉妹の次女も時折施設まで赴くらしい。
 そして、そこにはまるでそのままの「勇者くん」がいるのだと。これは三姉妹とお茶をした時に聞いた話なので間違いない。次女は彼が相当気に入らないらしく、末の妹がその名前を口に出す度に目が恐ろしい険をたたえていった。長女は朗らかなものだったが。末の妹はどうやら彼と親しいらしく、ニコニコと嬉しい様子であった。
 なんという名前だったか。なんだか可愛らしい名前だった気がする。ただ、確かに目の前の彼にはお似合いの名前で……
「ああ、アリスか」
 そう、アリス。不思議の国に迷い込みそうな、主人公らしい名前。ただ、勇者というよりは世界をかき乱すおてんばな少女の名前だ。
「あの……」
「ん」
 そうだったと考えていると、気づけば件のアリス少年が目の前にいた。やはりその顔は全くもって美しいもので、神は二物を与えるものだなと考える。これで腕っぷしが強ければ最高だ。ルニスは稀代のバトルジャンキーなので、強いならなんでも好きだ。熊とか。
「なんで、僕の名前を……」
「ああ、知り合いが君のことを噂していてな」
 ルニスからするとアリスは知り合いの知り合いだ。
「……もしかして、サシャさんですか?」
「早いな。そうだ。事前に話でも聞いてたか?」
 その名前に行き着くまでがあまりに早いので、ルニスは少し笑ってしまった。サシャというのは三姉妹の末の妹の名前だ。
「ええ、ルニスさんですよね?サシャさんからは『口調が軍人みたいで美人だが雑な女の人』だと聞いてます」
「失礼だな、あいつも。だが美人とは嬉しいことを言う」
 サシャは良識を兼ね備えるかと思えばそう言う遠慮のない部分もあるので面白い。くつくつと笑みをこぼすと、アリスは苦笑した。
「美人って言っても全く照れないって言ってたの、ほんとなんですね」
「何回も言われた言葉だ。美醜は正直どうでもいいんでな、照れも捨ててきたよ。ただ、子供に怯えられたりするんだ。その時は自分の容姿にため息をつきたくなる」
 アリスは話に興が乗ってきたので、隣に腰掛けた。ルニスが稚児趣味だと勘違いされると困るのだが、彼はそう言うことを考えていないらしい。
 アリスは苦笑したまま、ルニスの顔をじっと見つめる。
「多分、顔が怖いんだと思いますよ。美人だと思いますが」
「やはりそうか。なら仕方ない。最後のあがきで笑ってみるよ」
 
「にしてもまさに、勇者だな」
「?」
「知ってるか?お前は『勇者くん』だとか名前をつけられてここあたりじゃ有名だ」
 アリスは「ああ……」と知った顔をして、顔を背ける。どうやらその評判は彼自身までしっかりと伝わってしまっているらしい。恥ずかしいのだろう、耳が少し赤かった。
「私は王子くんの方がいいんじゃないかと思ってたんだが、今ので少し思い直した」
「……その心は?」
「『美人だと思いますが』なんて、会話で自然に混ぜてくるなんて、正にヒロインの胸を高鳴らせる勇者そのものだという話だ」
「……」
 もっと恥ずかしくなったらしく、顔が赤くなっている。これ以上からかうと色々、まあ児童への云々とかが怖いので、ルニスはそこあたりでやめておくことにした。何をも恐れぬ気概を持っているが、流石にこのような感じで世間から冷たい目で見られるのは勘弁だ。
「さて、子供なんだから遊びなさい。私はそろそろ帰るからな」
「……ええ」
「腕っぷしが強くなったら遊んでやろう」
「ありがとうございます」
 ひらひらと手を振り、ルニスは公園を後にする。後にはため息を吐く少年が残された。

「腕っぷし……って、あの人ぐらい強くなるのは、流石に厳しいよね」
 期待してそうだったけど……。
 
 
 

2/25/2024, 5:25:10 PM