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『もう二度と』

「……すきだよ」
意図せずに溢れた気持ちが、そのまま声帯を震わせて言葉を紡いだ。
泣き腫らして真っ赤に色づいた君の瞳が自分でも哀れなくらい驚きを浮かべた僕を映す。
失恋したばかりの人に言い寄るのってどうなんだろう、とか頭は冷静に働こうとするけれど、実際に空気を震わせるのはあの、なんてどもった声だけだ。
「好き?」
怪訝な表情を浮かべた君が手の甲で頬を伝う涙を拭う。
掬いきれなかった涙の粒が顎を伝って地面に模様を描いた。
誤魔化せるかもしれない。だけど誤魔化したくない。
濡れた君の瞳とまっすぐに視線を交差させて、躊躇いを弾き飛ばすよう頷いて見せる。
恐ろしいほど予期せぬ展開に戦慄いた唇が、空気が入り交じった音を空中に投げ出した。
「君が好きだよ」
目尻が避けそうなほどに見開かれた瞳が一瞬僕を捉えて、そのまま宙を泳ぐ。
もう止められなくなった気持ちが、君の胸を撃ち抜こうと途方もなくまっすぐな言葉を紡ぎだした。
「好きなんだ。ずるくてごめん。君しか考えられない。どうか、僕を見て」
言葉尻が震える。
情けなくて、それでも君の心を震わせられるならそんなことどうでもよかった。
「もう二度と、君以外は見れない」
君の唇が震える。

3/24/2025, 10:11:03 AM