伊月はる

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 お母さんのお腹の中で私たちは双子だった。だけど、この世に生まれてくることができたのは私だけだった。鏡の中の自分を見ると、生まれてこれなかったもう一人の私のことを思い出す。鏡の向こう側の手のひらに自分の手を重ねてみたけど、お母さんが毎朝ピカピカに磨いている鏡は、ひんやりと冷たかった。授業が終わって起立令をしてるとき、近所の河川敷をぷらぷら歩いてるとき、たまに背後に視線を感じてわっと不意打ちに振り返ることがあるけど、誰もいない。大人になったら、こんな気持ちも忘れてしまうんだろう。だからせめて大人になるまでは、生まれてこれなかったもう一人の私に、想いを巡らせていたいと思うんだ。#鏡の中の自分

11/3/2024, 1:35:56 PM