思い返せばろくでもない人生だった。
シングルマザーの母親はいわゆる毒親で、夜出かけて行ってはそれきり、いつ帰ってくる分からなかった。
帰って来たかと思えばだいたい酔っ払っていて、私に家事を任せるという旨の言葉を残し、自分はそそくさと寝に行ってしまった。
公立の小・中学校ではそんな遊び歩いている母の噂をクラスの誰もが知っていて、ことあるごとに陰で笑われた。
友達もいなかった。生まれが田舎ということもあり、子ども達の関係も閉鎖的で、「そういう子」との付き合いがあるなんて恥だとでも親から言われているのか、誰も近寄ってはこなかった。
高校は意地で勉強して、県外の進学校に入学した。しかし結局、母親のお金の使い込みによって中途退学になり、私は地元に帰った。
一番最悪だったのはここからだ。地元の工場で働き出した私に近寄ってきたのは、東京から来たという男だった。
ここから抜け出したいという強い思いと、男の都会的な雰囲気に騙され、私は恋に落ちた。
そして、落ちた結果がこれだ。
私は酷い、それは酷い裏切られ方をした。薄暗い廃ビルで落ち合ったあの日…。
あの光景を、あの恨みを、私はこれからも一生忘れることはないだろう。
そんな裏切られ方をしたのに、私はまだその廃ビルで一人佇んでいた。
もういい加減、違うところに行かなければいけない気がするのに、心がそれを拒否したままだ。
そんな中。貴方は現れた。
私の大好きな百合の花束を持って、貴方は私のもとへ訪れた。
信じられなかった。その人は…中学の頃の同級生だった。
中学の時、男子たちにからかわれていた私を、唯一かばってくれたことのある人だった。
立ち止まったままの貴方を、私が信じられない思いで見つめていると、花束を持ったまま、貴方は悲しげに微笑んだ。
その顔はまるで今までの私の苦しみの全てを理解してくれているかのようだった。
こんなに慈愛に溢れた表情を向けられたのは初めてで、なんだか体と頭に渦が巻いているような感覚を覚えた。
ああ、嬉しい。嬉しい。貴方はきっと私に温かい感情を向けてくれている。
ああ、でも、あんまり優しくしないで欲しい。
あんまり優しくされたら私…
貴方に憑いて行きたくなっちゃうよ。
5/2/2023, 12:36:09 PM