『桜散る』
僕は、学校の帰り道に気になっている女の子を見つけた。羽月だ。
「…またアイツ、一人で帰ってるよ。」
僕は走って羽月の被っているフードを外した。
『うゎ!って、律君!!何?』
「お前、また一人じゃねーかよ。」
『ヘヘッ。…桜、きれいだね。』
羽月は立ち止まって、ひとり寂しく咲いている桜の木に優しく触れた。
「…もろともにあはれと思へ山桜 花より他に知る人もなし…お前、百人一首好きだろ?今の風景、この歌にぴったりだよな。」
羽月はふりかえった。
『…律君、もしかして私のために百人一首覚えてくれたの!!!』
羽月はキラキラした目で僕のことを見た。
「お、おう。」
『かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじなもゆる思いを…』
羽月はそう言って僕に笑いかけた。
それから何日たったかな?
羽月は学校に来なくなった。
病院に入院してしまったのだ。
僕は、悲しくなった。
そんな時に、羽月からラインが来た。
『あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな』
「これって、百人一首だよな?」
僕は、この意味を調べてみた。意味は…。
『もうすぐ私は死んでしまうでしょう。あの世へ行く思い出として、最後にもう一度だけあなたに会いたい』だった。
僕は、急いで病院に向かった。
待ってろよ、羽月。
まだ行かないでくれよ!!
「羽月!!大丈夫か?」
『律、君。来てくれたんだね。』
「当たり前だろ?」
『前言った、百人一首の意味、わかった?かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじなもゆる思いを…』
僕はうなずいた。
「これは、恋の歌だ。そうだろ?」
羽月は静かにうなずいた。
「僕も、僕も羽月のことが好きだ。」
『今の気持ちを、百人一首で教えて?』
「…瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ、忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで」
『ありがとう。大好きだよ?生まれ変わったら、必ず会いに行くからね。もし私にあったら、来ぬ人をまつ帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ、そう言ってね。約束だよ。』
羽月はそう言って静かに息を引き取った。
「羽月?羽月!頼むよ、僕をおいて行かないでくれよ。嫌だよ。待って…。」
あれから、2年経った。
羽月に会いたいな…。
羽月のことは、いつまでも忘れられない。
桜散る…。
『あの。あなたこれ落としましたよ?』
突然女の人に声をかけられた。
びっくりして振り返ると、羽月がいた。
幻覚だと思って目をこすったけど、やっぱり羽月だった。
「は、羽月?羽月、だよな?」
すると彼女は、『なんで私の名前を知ってるんですか?どこかでお会いしました?』
と言った。
前よりも礼儀正しくなっている。
僕はこう言った。
「はい。2年前に会いました。…来ぬ人をまつ帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ、僕は、あなたにもう一度あった時にこの歌を歌ってほしいと言われました。覚えていますか?」
彼女は、少しずつ笑顔になっていった。
そして彼女はこう言った。『めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな』
4/18/2026, 9:50:01 AM