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「馬鹿じゃないの、そんな男やめなって」

秋の夜長、
場末のバーでの語らいは勢いを増す

「わかってる…わかってるけど、可愛いのよ」
秋恋という沼に足を取られて抜け出せないママは、頭を抱えてうんうん唸っている

「月にいくらあげてるの?
そいつママのお金が好きなんだよ」

「ちょっとやめて、
あの子はそんな子じゃあ……」
カウンターを挟んだ真向かいにいる
大きなママは遂に口を噤んだ

頼もしい肩幅に蛇のうろこ模様の刈り上げ
見た目はいかついのに
その心は
あまりにもささやかで密やかで優しいのだ

「…でも、いい!例えあの子が好きなのがワタシのお金だとしてもね!可愛いボクが求めてくれるならそれでいいの!」

吹っ切れたのだろうママが高らかに宣言する

「まあママが幸せなら、
それでいいならいいじゃない
どうせ人なんてすぐに死んじゃうんだから、
今幸せなのが1番いいよ」

ママのえくぼの溝が深くなった
その笑顔は母性を彷彿させる
きっとそのクズ男も
こういうところが好きなんだろうか

「あんたのそういう所大好きだけど、
死んじゃあダメだからね
刹那的な愛こそ人生の彩りよ、
愛に生きなさい」

「わかってるよ、ママ
好きなの飲んで、私の奢り」

そう言うと彼はにっこりと歯を見せて
ジンを注ぎ始めた

深まる夜に会話を交わす相手がいること
それだけで私の人生は愛に満ち溢れている
スコッチ・ウイスキーを噛み締めながら
ママの秋恋話にもうしばらく耳を傾けていた

9/22/2023, 1:32:43 AM