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「…ん?」
ゆっくりと瞼をあけると、一気に太陽の光が差し込む。
真っ先に、白い天井が目に入った。
「病院?」
消毒液のような、ツンとくる匂いが鼻を刺激しているため、ここは病院なのだろう。
身体を起こすと、何かの機械が数機と、白く靡くカーテン。
さらに視線を落とすと、腕に点滴の針が刺さっていた。
「え、何これ。俺、入院してる?」
突然のことで意味がわからない。俺は入院するような病気をした覚えはないし、何か事故に巻き込まれた記憶もない。
急いで周りを見渡すと、棚の上にりんごがひとつ、置いてあった。ベットから慎重に出て、棚の前まで移動をすると、りんごの下に一切れの紙が見える。
「よいしょっと」
りんごをよけて、その紙切れをみると字が並んでいた。
字が汚い人が、頑張って丁寧に書いたような字だ。

『×××へ

突然のことで、何かわかってないと思うんだけどさ。
簡単に説明すると、×××は今入院してるの。
一ヶ月くらい、昏睡状態だった。
×××は頭を打ったから、記憶が少し混濁しているかもしれない。もしかしたら、俺のこと覚えてないのかもって、思うと怖いけど、×××ならきっと思い出してくれると信じてるよ!
ベットの横の服かけに外套が掛けてあるから、それを着て一階まで来て欲しい。
起きたばかりで、身体が痛むかもしれないけど、ちょっとだけ頑張ってほしいな。
俺は、そこで待ってる。』

これを書いている人は誰なのか、わからないけどとりあえず従うことにする。
振り返り、服がけをみると、確かに外套が掛けられている。
病院用だろうか、白くて手触りが良い。
すぐに手に取り、羽織る。
微かに身体が怠いような気がするけど、一ヶ月も眠っていたからだろうな。
正直、俺が一ヶ月も眠っていただなんて、信じられない。
こんな病院は来たことがないし、看護師の足音も、聞こえてくるはずの他の患者の話し声すら、一切聞こえない。
「なんか不気味〜」
俺は、点滴が掛けられているイルリガールド台を手に持って病室を出た。

「はー、広すぎじゃねえ?」
信じられないくらいに病院が広い。
俺が住んでいたところは、こんなに大きな病院なんて建っているわけなくて。
やっぱりなんか可笑しいなと思いながら、廊下を歩く。
やけに静かで、薄暗い。それでいて、病室の中は気味が悪いくらいに明るくて。
「何処なんだよ、此処」
その気味の悪さが、俺の鼓動を速くさせた。

3/20/2025, 5:40:04 AM