悪役令嬢

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『また明日』

森の中にひっそりと建つ魔女の家に訪れた魔術師。

扉を数回叩くと、鉤鼻に尖った耳と
緑色の目を持つ老婆が顔を覗かせた。

彼女は《北の魔女》と呼ばれる魔法使いだ。

「ふん、あんたかいオズワルド」
「ご無沙汰しております」

中へ通してもらうと、棚には書物や
素材の入った瓶がずらりと並んでおり、
部屋の中央にある木の机には、開かれたままの
分厚い本に髑髏や試験管などが置かれていた。

かまどではぐつぐつと煮立つ大鍋が
吊るされており何か作っている最中だった。

「ほら、受け取りな」
「ありがとうございます」

魔女に頼んでおいたこの地方でしか
採れない珍しい薬草で煎じた薬を受け取る魔術師。

彼女の作る薬は、リルガミン侯爵家の領地の人々
特に労働者階級の女性達に愛用されている。

「自分で作ろうとするとなかなか
上手くいかないんですよね」
「まだまだだね、坊や」

北の魔女は薬草の知識に大変優れており、
彼女から多くの事を学ばせてもらった。
それでも自分はまだ半人前で、この方や
祖父などの偉大なる魔法使い達には遠く及ばない。

「あ、そうそう!貴女に渡したい物があったんです」

魔術師は黒いローブの下からピンクの
カーネーションの花束を取りだして魔女へ差し出す。

「街の花屋で買ったものです。
いつも良くしてもらっているお礼に」

「ふん、素材にならない花なんかもらっても
ちっとも嬉しくないわい」
そう言いながらも、魔女は棚から花瓶を取り出して
大切そうに花を生けると、日差しのよく当たる
窓辺に飾った。

帰り際────
作りすぎたからとハーブのクッキーや
ブルーベリーのジャム、べっこう飴まで頂いた。

「また明日も来るのかい?」
「はい。駄目ですか?」
「ふん、勝手におしい」
突き放すような物言いだが、
どこか嬉しそうだ。

彼女はこの森にずっと一人で暮らしている。
訪れる者もきっと稀だろう。
寂しげな老婆の姿を想像した魔術師は、
用事がない時でも顔を見せに来ようと
心に誓ったのであった。

5/22/2024, 4:48:30 PM