「去年は『伏線が回収されて、ハナシがオチていく』ってネタで書いたわな」
気温がストンと落ちる、次々候補者が落選していく、食器の汚れがみるみる落ちる。
「闇堕ち」は少し違うかもしれない。某所在住物書きは「落ちる」にくっつくであろう言葉を探しながら、今後の気温分布を1週間程度確認している。
東京は水曜日頃、今まで少し落ちていた気温が逆に上がって、20℃に届きそうな予報。
「逆バンジー」は、「逆に落ちる」と読んで、今回のお題に使用することは可能だろうか?
「……いや無理よな??」
――――――
最近最近の都内某所、某稲荷神社の敷地、日中。
お題回収役の乙女を後輩、もとい高葉井といい、
11時58分まで拝殿で熱心に手を合わせ、
59分頃にスマホを取り出し、ディスプレイをタップタップ、タップ。ロックを解除する。
12時を少し過ぎたあたりで6通のメール。
抽選結果の告知である。
「どうか、どうか……!!」
高葉井には約10年の付き合いの推しがあった。
元々同人小説原作の同人ゲームから始まったそれは、コミカライズされ、ソーシャルゲームにも進出。
「公的機関に似た組織が、異世界同士の渡航・交易・問題解決等々の調整をしている」という背景が刑事ドラマと良い相性で、実写化の打診があった。
申し訳程度の原作要素と無駄に付与された恋愛シーン、事件パートにより、却下されたとか。
で、そのゲーム内に登場する、人気キャラクターの持ち物を、原作者監修で完全再現したファンアイテムの、早期抽選販売である。
最終的には後日、3ヶ月後の見通しながら、公式のネットショップより購入可能となる。
高葉井はこの抽選購入キャンペーンの中の、
己が信奉している非公式カップリング2名が
劇中で実際に使っている名刺&カードケースと、
実際に使っているタバコケースorマネークリップ、
実際に略、市販の替え芯が使えるボールペンを、
それぞれ2個ずつ、すなわち実用と保存用で応募。
結果はお題のとおり。落ちていく。
名刺も、タバコケースも、ボールペンも、
どのメールにも、「ご用意できました」が無い。
「終わった……」
膝から崩れ落ちるのもまた、お題回収。
惨敗であった。3ヶ月待機確定であった。
わぁん。コンちゃん。
コンちゃんの稲荷神社でお祈りしたのに、応募ぜんぶ、落ちちゃったよ。さびしいね。
稲荷神社在住にして、エキノコックス・狂犬病対策済の子狐が、参拝者を嗅ぎつけて高葉井に突撃。
尻尾をぶんぶん、扇風機のごとく振り回し、高葉井の鼻をあごを、ペロペロ、ぺろぺろ。
己の腹なり頭なりを撫でてくれる優しい乙女を、ドチャクソに舐め倒す。
子狐は高葉井の匂いから、落胆と敗北と、その他やり場のない感情とを知覚していたが、
ぶっちゃけ子狐にとって、ファンアイテムの抽選販売とその当落結果は何の意味も為さない。
ただただ賽銭よこせと、頭を撫でろと、コンコン、じゃれて甘えて幸福に、腹を見せるばかり。
「そうだよね、コンちゃん。元気出さなきゃね」
コンコン。キツネ、そんなこと言ってないよ。
「早期の抽選って、だけだもんね」
こやん。知らないよ。それよりお賽銭ちょうだい。
「よしっ!こうなったら私、実用と保存用と、実用のスペア買えるように、お金貯める!!」
くわぁっ!なでなで!お賽銭!お揚げさん!!
落ち込むのも一瞬なら、立ち直るのも一瞬。
新しい目標を見つけた高葉井は、すぐ立ち上がり、膝や上着に付いた枯れ葉も構わず、
スッと後ろを向いて、稲荷神社から出ていこうと、
「わっ、」
「おっと!」
一歩踏み出したところで、後ろに居たらしい「誰か」――聞き覚えのある男声の持ち主にぶつかった。
「すいません、ごめんなさい」
それにしても本当に、「親の声より聴いた声」である。誰とぶつかったのだろう。
距離をとり、深々と詫びの礼をして、
高葉井が頭を上げて、ぶつかった相手を見ると、
「あれ……?」
おかしいな、おかしいな。目の前に、「自分が推しているゲームキャラクター」のひとりにバチクソ似ている男が――タバコケースの方のひとがいる。
夢かしら。 夢落ちであろう。
一連のすべては夢でしたという結末に、それこそ、「落ちていく」のだろう。
「わ……わぁ……」
夢にせよ現実にせよ、突然現れた最高解像度の推しに、高葉井の信仰心のダムは決壊。
気付けば自分のアパートのベッドの上であった。
11/24/2024, 5:09:12 AM