君に会いたくて
「先生。相談したいことがあります」
私が職員室から出ると、そこには私が受け持つクラスの生徒、途廻(とまわり)くんがいた
「じゃあ、歩きながら話そうか」
私と途廻くんは2人並んで、放課後の廊下を歩く
2人の足音だけが響く廊下には窓から真っ赤な夕日が照らされている
そこで途廻くんは話してくれる
「僕って変ですか」
途廻くんの声は足音へと消え入るようだった
「ん〜、どうだろうね。なんでそう思ったの」
深く詮索するのは躊躇うかもしれなかったが、私からしたら根本の部分を少しでも知っていないとこの相談をどうこうできないと思い聞いた
「はい、、」
途廻くんは立ち止まり、窓から校庭を眺める
私も隣に立ち止まり、校庭を眺める
そこにはいろんな部活動の生徒たちがたくさんいた
そして途廻くんは口を開く
「みんなが好きなものを僕は好きになれないんです。
みんなは同じ話題で盛り上がっていて、僕はそこに入れない。
好きなフリをしてみんなの中に入ることはできるんだろうけど、そのみんなの中に入りたいとはあまり思えなくて、
それで結局みんなから逸れた外に僕は一人でいる」
「途廻くんは、変わってるかもね」
私はできるだけ愛想よく言った
「えっ、やっぱりそうですか、」
「でもそれは、途廻くんが思っている変わってるとは違うかな。もちろんいい意味でだからね」
「いい意味で?」
「そう。私が思うに、人の性格は環境によって変わる。
どんな場所で育ったか、どんな人と関わってきたか、どんな選択をしてきたか、そういう後天的なものが人の性格を形作ると思う。
だから、人の数だけ性格もある。この世に全く同じ人なんて存在しないんだよ。
他の人と違っているのなんて当たり前」
「はい、」
途廻くんの頭の上には疑問符が浮かんでいる
私は少し逸れた話になってしまったと、その疑問符のレバーを動かし、元のレールへと戻す
「途廻くんは『みんな』って言葉を多用してたよね。
よく『みんな』って主語を大きくして語る人は自分を大きく見せるためとか、逆に悲劇の主人公になるために使うことが多いけど、
さっきの途廻くんの『みんな』の使い方やその口調はそんな風には聞こえなかったかな。」
「はい、」
「みんながいて、僕がいて、そしてそれを途廻くんは客観的に見ている。
それってなかなかできないことだよ。
だから途廻くんは変わってると、私は思ったかな。」
「ありがとうございます。そう言われると、変でもいいかもって思えそうです」
途廻くんは最初に比べてだいぶ柔らかい表情になっていると感じた
「ちなみにさ、途廻くんが好きなものってなに」
私は途廻くんを校門まで見送ろうと、一緒に廊下を歩いて向かっていた
そこで私は聞いてみた
「奏多尊(かなたたける)さんっていうピアニストです」
「あぁ、懐かしい。天才少年ピアニストだよね」
一昔前に話題になった人だと私は思い出した
「そうです、今は元天才少年ピアニストって揶揄されていますけど。
僕は未だに好きで、最近だと『君に会いたくて』って曲が良くて。
でもだいぶ前に話題になった人だから誰も知らなくて、」
「大丈夫、私は知ってたから。」
1/20/2026, 1:31:48 AM