稲村 由比

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【風鈴の音】

軒下に下げた風鈴は
風が無いと役目を果たせない

時折そよぐ弱い空気の流れに少し短冊が揺れるが
舌が当たるまでは行かず
ただぶら下がっているだけの物体と化している

それでも

以前貴方が落書いた短冊を見るだけで
暑さが遠退く

頬を伝うのは
汗か
涙か

『リー…ン…』

不意に届いた涼しげな音
頭に響いた澄んだ音色

ふふ…

一度だけ届いた鈴の音に笑みを浮かべ
微風にそよぐだけの短冊を見つめていた

7/13/2025, 4:07:23 AM