小絲さなこ

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「私服と制服」



俺の通っている高校には制服がない。
一見、自由で良いと思うだろうが、実は結構面倒くさい。
とくに男子生徒は、毎日毎日服装を考えなくてはならないのが面倒で、中学時代の制服のスラックスとシャツで登校しているヤツらも少なくない。
俺も基本的に中学時代のスラックスにユニクロのシャツで通学している。夏はポロシャツ。冬はVネックのニット。
面倒なのもあるが、もうひとつ理由がある。

「よ、よう」
「おはよう」

隣の家に住む幼馴染は、俺とは別の高校に進学した。
方向は違うのだが、通学時間はあまり変わらないようで、家を出る時間も同じくらい。
毎日ではないが、朝、顔を合わせることが、たまにある。今日はそんなたまにある日。ラッキーデーだ。

彼女の学校は制服が可愛いと評判の私立高校。
セーラー襟のジャケットに、白いブラウスにリボン。プリーツスカート──それは彼女によく似合っていた。

「あれ?」

先週の月曜日の朝に会った時は、夏のセーラー服にカーディガンを羽織っていたよな。

「衣替えか?」
「うん。そろそろ涼しくなってきたし。冬服でいいかなって」

ここ数年、残暑が厳しかったり、夏が早く来たりするため、五月から夏服着てもいいし、十月も夏服を着てもいいのだという。

「私服だと衣替えないから羨ましいなぁ」
「いやいや、私服なんてめんどくせーんだって。だからこんなカッコしてるんだし」

くすくす笑う彼女と、通りまで歩く。

「じゃあ、またね」
「おー」

彼女はバス停へ、俺はそのまま徒歩で学校へ向かう。
彼女の後ろ姿を見送り、息を吐いた。


「毎日会えるわけではないのに……」


我ながら痛過ぎるし、こうして分かれたあと、虚しくて落ち込みそうになる。

ふたりで歩くとき、同じ学校に通っている気分を味わいたい。

この格好をしている本当の理由は、誰にも言えない。



────衣替え

10/23/2024, 3:48:30 AM