「行かないで」
父と過ごした最後の土曜
わたしは母方の祖父母の家に預けられる予定だった
母が弟の出産で入院していて父は仕事があったから。
でもわたしは父と離れたく無くて、
父の足にしがみついた。
「お父さんと一緒に帰る!」
そう言って泣いて聞かなかった。
父は仕方なく仕事を休み、その日は父と2人で過ごした。
4歳のわたしは祖父母の家に置いて行かれることも無く、自分の家に帰れて大好きな父を独占できてご満悦。
「今日だけで、明日はダメだからな。明日はおじいちゃんとおばあちゃんの家に泊まるんだぞ」
そう何回も言って聞かせた。
その次の日母は弟を出産。
父は仕事先から病院に面会に行き、
その帰りに倒れてそれっきりに。
あの時、聞き分けの良い子供にならなくて
本当に良かったと思う。
あの日以来わたしはずっと聞き分けの良い手のかからない娘になった。
産まれたばかりで父を知らない弟より、
父を知っているわたしは幸せな娘。
幼い子供を残されてシングルマザー母はかわいそうな人。
娘のわたしが助けてあげなければいけない。
甘えてはいけない、
わがままをいってはいけない。
我慢は義務。
泣いてわがままを言うことを許してくれる人は
わたしの世界からいなくなってしまった。
でももうそろそろ、
わたしはわたしに許してあげて良いだろうか
30年も時間も経った。
泣いてわがままを言える、
素直な本当の自分を
心の奥底に見つけて抱きしめる。
10/25/2024, 12:25:07 AM