織川ゑトウ

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『病季(びょうき)』

春夏秋冬。

今は春。
外の桜がざわめく頃、
君と初めて出会ったね。
眉目秀麗。
君は僕に一瞬驚いて食べていた桜餅を喉に詰まらせていた。
あれは僕にとっても今世紀最大の喜びだったよ。
でも、これがきっかけだったんだよね。
その時の君の瞳は確か、
桜。だったね。

今は夏。
「海に行こう!」
急にそう言って走り出すもんだから、こけてすりむいちゃったじゃないか。
君はお転婆なのに頭はよくて、授業中よく叩きおこしてくれてたね。
あの花火大会は忘れないなぁ。
「可愛いでしょ!」と自信満々に浴衣姿を見せて来たから、思わず「可愛い」って言っちゃったよ。
その時の君の瞳は確か、
大きな大きな花火。だったね。

今は秋。
もう肌寒い頃なのに君はまだ半袖で、風邪をひいていたっけな。
意地でも半袖を着たい理由が「まだ夏に残っていたい」なんて子供っぽいね。
風邪が治ったら「紅葉狩りに行こう!」だなんて、君はどれだけ僕を振り回すんだい。
でも、そのお誘いは僕を想ってなんだよね。
その時の君の瞳は確か、
紅葉。だったかなぁ。

今は冬。
大雪が降ってきて興奮した君が僕に雪を投げつけてきたね。
「お返しだよ!」って投げ返したら、まさかの雪だるまにされたよね。
クリスマスは一番の思い出。
「クリスマス、デートに行きませんか!!」って君は少し緊張していたなぁ。
デートの前日は緊張してよく眠れなかったや。
その時の君の瞳は確か、
暗闇。

ねぇ、君。僕があの時言った言葉を覚えてる?
「僕を忘れて」
これはちょっとしたお願いに過ぎないんだけどね。
でも、本当はこう言いたかった。
「僕のことを忘れて、幸せに生きて」
僕はクリスマスの前日に死んじゃった。ごめんね。折角のデートだったのに。
でもね、僕はまだ生きてるよ。
君の瞳の中に住んでる。
少し鏡を覗いてみて!僕の笑った顔が見えるでしょう?
僕が景色を見つめていた時、君は僕を見つめていてくれたもんね。ありがとう。

泣きたくなったら、鏡を見て!君の瞳に住んでる僕が君のことを笑かしちゃうぞ。

嗚呼、でもそれだと君は僕を忘れてくれない。


お題『君の目を見つめると』

※眉目秀麗(びもくしゅうれい)=容貌がすぐれ、大変美しい様






4/6/2023, 1:07:48 PM