夏輪篤

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父は船を持っていた。専業農家であったが、漁業の権利を持っていて、漁をすることのできる船を持っていたので、
「ワシは漁師ぞ」
と誇らしげに言っていた。
父はその船で主に釣りをしていたが、釣竿を使わず手釣りで、ゴカイやなどの餌や撒き餌などは使わず、手作りの擬似餌で鯛を釣ることも「漁師」としての誇りなのであった。
父に言わせれば、餌で釣るのは「誰でもできる」ことだし、撒き餌などは「海を汚している」だけのことなのであった。

仕事が終わってから、父は携帯ラジオをヤッケのポケットに入れ、船に乗って夜の海に出ていく。
そして釣れようが釣れまいが満足げに戻ってくるのだった。その頃の父の年齢をすでに超えてしまっているような気がするが、今の私より、父の方が楽しそうに暮らしていたような気がしてしょうがない。
その一方であんな生活を数十年続けていられ本人は幸せであったろうが、その分のしわよせが身近な人のところにきていたたのではないかという気もする。
それも含めて果報者ということかもしれないが。

好きなこと勝手気ままにする人の影であなたは幸せでしたか

8/16/2024, 2:16:53 PM