『忘れられない、いつまでも。』
忘れられない、いつまでも。
目の前に迫る車。
突き飛ばされて転んだ痛み。
こんな時にも笑ってた、私の好きなあの人。
衝突の音。悲鳴。声、声、声。
救急車のサイレンの音。
血塗れのあの人。
救急隊の人たちの声。
心電図の甲高い電子音。
慌てる救急隊の人たち。
あの人の死を告げる医者。
「……っ!」
自分の叫び声で目が覚めた。
朝だ。
動悸が激しい。頬が涙で濡れている。
あぁ、またこの夢だ。
車の衝突事故で私の代わりにあの人がひかれて、亡くなる夢。
忘れられない、私の記憶。
深呼吸して心音を落ち着かせる。
落ち着かせたら、顔を洗って涙の痕をチェックする。
「ん、大丈夫かな」
顔に泣いた痕があると、家族や友人などにも心配をかけてしまう。
だから今日は残ってなくて良かった。
一先ず安心。
「いってきます」
いつも通り心配もかけることなく、朝の支度を済ませ家を出る。
狙った通り、隣の家のお兄さんも家を出る所だったので偶然を装って挨拶した。
「おはようございます」
「おはよう、今日も早いね」
会話をしながら、駅まで歩く。
お兄さんは私の歩調に合わせて歩いてくれる。
そんな所も好き。
「じゃあ、車に気を付けてね」
「はい、お兄さんも気を付けて下さいね」
駅でお兄さんと別れた。
お兄さんはあの人と同じ笑顔で私に笑いかけてくれる。
だから、すぐにわかった。
記憶の中の、あの人と同じ人だって。
何度生まれ変わったかわからないけれど、やっと見つけた。
だから現世こそ、私が死ぬまで一緒に居てね。
5/9/2024, 1:13:35 PM