Ayumu

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「人間関係って、距離が近すぎるとうまくいかないって言うだろ?」

 いきなりなにを言い出すのかこの人は。

「見たいものが近くにありすぎると一部しか見えないだろ? 拡大しすぎたみたいにさ」
「ま、まあ」

 最前列の映画館みたいなものだろうか? 一部しか見えないわけではないが、近すぎるのに変わりはない。目も痛くなるし。

「適切な距離感を学んで、初めてその全貌が見える。ここが好き、ここは嫌い。そんなふうにね」
「つまり、なにが言いたいんです?」

 よくぞ聞いてくれたと言いたげな、眩しい笑顔が向けられた。……確かさっき告白してきて、私に振られた人ですよね?

「今の僕と君は、ある意味距離が近すぎると思うんだよ」

 そう繋がるとは思わなかった。

「だから僕の悪いところしか見えていないんじゃないかな。僕の人となりをもう少し観察していればまた見方が変わるんじゃないかと、そう思うんだよ」

 ……つまり、このまま振られて終わるわけにはいかないと言いたいのだろうか。普通、もう脈はないと渋々でも受け入れるものだが、よほど諦めが悪いらしい。

「確かに、私はあなたのことよく知らないですね。仕事で絡んだことないし、正直初めて知ったくらいだし」
「だ、だろう?」

 胸を押さえているが事実なのだから仕方ない。

「今も無茶苦茶言ってるなーって呆れてもいますし、あなたが言うような奇跡は全く起こりそうにないって思ってもいますけど」
「あ、あくまで予定だろ? 予定は未定と言うじゃないか」
「全く、って言いましたよ」

 ……なんだか少し楽しくなってきてしまった。この人、変だけど面白い。

「わかりました。ここはベタに『お友達から始めましょう』?」

 呆気に取られたように、目を丸くしている。うまくいくとは思わなかった、とでも言いたげだ。

「やっぱりやめようかな……」
「ま、待ってくれ。すまない、君の懐の深さと思いきりのよさを改めて噛み締めていたところだったんだ」
「改めて、って、私たち初対面なのに」
「僕は君のことを好き、だからね」

 ずっと物陰から見ていました。つまりそういうことなのに、こうも堂々と言い切られると変な説得力を感じてしまう。

「わかりました。そういうことにしときます」
「本当だぞ? 僕は嘘は嫌いなんだ」
「だからわかりましたって」

 少なくともさっきの無関心さはなくなっていた。
 どうやら「適切な距離感」に少し近づいたらしい。


お題:0からの

2/22/2023, 12:18:51 AM