未知亜

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 電車を降り、ホームですぐに着信履歴をタップした。行き違う時って、なんでこんなにもとことん行き違うんだろう。
呼び出し音を五回数えたところで一旦諦める。右のまぶたがまたピクピクしていた。

 こんな時はさっさと帰って寝るに限るのだと思いながら、自宅とは反対の改札を出る。歩きながら、もう一度架け直した。
しんとした住宅街で、雲のない闇に白い月が浮かぶ。そういえば朝のテレビでなんとかムーンだと言っていた。なんだったかな。

 自販機の前で立ち止まり、「今日の月」と検索する。ポケットの小銭をつかんだつもりが、十円玉が勢いよく機械の下に転がっていった。次の瞬間スマホが鳴動する。

 名前の思い出せない月より転がったお金より買おうとした珈琲より、余程大事な名前に私は指を伸ばす。


『月夜』『お金より大事なもの』

3/9/2026, 7:24:40 AM