お題『空を見上げて心に浮かんだこと』
主様からお休みを申しつけられて三日が経った。主様の部屋の前を通りかかると中から鈴を転がすような笑い声が聞こえてくる。時折アモンが主様に何か言っているようだけど、主様は決まって、
「そーゆーのは本当に大事なひとができてからにした方がいいと思うよ」
といなしている。
ふと室内の音が途切れて、俺は自分が聴き耳を立てていたことに気づいた。
他の執事に主様を取られてしまった、その思いがグルグルと頭の中を渦巻いていて、嫉妬のあまり目眩がしそうだ。
……こういうときはトレーニングに限る。俺は2階の執事室に戻ってトレーニングウェアに着替えた。
屋敷近くの湖まで走り込み、そこで主様とボートを浮かべて遊んだことを思い出してまた凹んだ。こんなことじゃだめだ。自分を叱咤して屋敷まで過去最速のスピードで駆け戻り、そのままハウレスを付き合わせて腹筋、背筋、腕立て伏せ……。
身体を酷使して芝生の上に仰向けに寝転べば、青空にのしかかってくる積乱雲が目に入ってきた。
そういえば、以前、主様は街の子どもたちに読み聞かせるための絵本を作っていらしたな……。
『遠くで雷が鳴った。
大きな、大きな、もくもくとした雲がのっしのっしと近づいてきて、頭の上で泣き出した』
間もなくして雷が鳴り始め、辺り一面に雨の匂いが立ち込めてきた。
……はぁ……俺の方が泣きたいよ……。
7/16/2023, 11:54:11 AM